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デジタルビデオを外に持ち出す

(2005年02月12日追加)

[目次]


ポータブルAVプレイヤーというもの

録っても見る時間がない

テレビ番組をデジタル録画するようになると,VHS テープで録画していた頃よりさらに,録ったまま見ない番組が増えた。
ドラマなど,1クール分全部録ったが見ていない,なんてこともある。
ハードディスクに置いたままだと容量を圧迫するので,とりあえず DVD-Video にして DVD-R に焼く。しかし見る時間がなく,DVD-R ばかりが溜まっていく。

通勤時間に電車の中で見たりできないかな,と思っていた。
それに必要なのは,いわゆる「ポータブルAVプレイヤー」(あるいはポータブル・マルチメディア・プレイヤー(PMP))というものだ。
車内がすこし混雑していて,本や雑誌を広げるには足りないが,これを利用するくらいのスペースはある,という状況は珍しくない。あるいは,読みかけの本や雑誌がないとか,どうも集中力がなくて文字を追えない,というときもある。

そんなときに使いたい,と考えたのだ。

HMP-A1 の登場

そう考え始めたのは 2004 年春頃のこと。その頃の代表的な製品は,次の2つだった。

  1. ARCHOS の Cinema To Go(AV320,AV340)
  2. SONY の PCVA-HVP20

しかし,a.は MPEG-4 系の動画しか再生できない。DVD-Video にすることを前提に,MPEG-2 形式で録画している私にとっては,それを MPEG-4 に変換するという手間が必要になってしまう。
しかも取扱店が少なく,値段が高かった。ハードディスク容量が 20GB の AV320 で 83,000 円以上した(2004年7月4日現在)。

他方,b.は MPEG-2 が再生できるが,逆に MPEG-4 の再生はできない。また動画再生専用で,音楽などの再生はできない。
VAIO のオプション品という位置づけの製品なので,VAIO で録ったテレビ番組を見るために必要な機能だけ持っています,というわけだ。
ここまで機能が少ないものを,カバンに入れて持ち歩くわけにはいかない。

というわけで,この2つは買うことができなかった。
そこに発表されたのが,SONY の HMP-A1 である。
これなら,MPEG 1/2/4 の動画と MP3/WAV の音声に対応しているので,かなり使える。

「買い」だと思う

今後この種の製品は,もっと高機能でもっと安いのがいろいろ出てくるだろうからそれを待つべきだ,買うのはまだ早い,とも考えた。
だから,発売初日(2004 年 6 月 26 日)に買うなんてことは,さすがにしなかった。

しかし,今後発売される製品は MPEG-2 を切り捨ててくることも考えられる。
この手の製品は,録画機能を持っているわけではないから,パソコンからの転送を前提にしている。そうすると,メーカーとしても,「ユーザーは,より小さい容量で済む MPEG-4 系のファイルにしているだろう,余計な機能は切って小ささや安さを追求したほうが売れる」と判断する可能性が高い。

逆に,MPEG-2 対応の場合,HDD/DVD レコーダーからデータを転送できたり,チューナーから直接録画する機能を持っていたり,という方向にいくだろう。そういう機能は私には要らないのだが,機能が増える分だけ値段が上がるか,よくても HMP-A1 と同じ,ということになりそうだ。
だとすれば,HMP-A1 をいま買っておいて損はない。

ということで,発売日翌々日の 6 月 28 日,購入してしまった。
池袋のビックカメラ本店,62,790 円。10%のポイント還元があるので正味 56,511 円。ただしメーカーの1年保証に上乗せする3年保証をポイント5%分(3.140円相当)でつけたので,結局,総額としてはほぼ 60,000 円というところだった。

本や雑誌以外では,発売からこんなに短期間しか経たないうちに物を買うのは,初めてのことだった。
それだけ,期待は大きかった。

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HMP-A1 の使い心地

概要

では実際使ってみてどうだったか。

一言でいえば,期待は裏切られなかった。
けっこう快適だ。電車の友としてはほとんど不満がない。
ファームウェアや付属ソフトのアップデートもマメに行われ,不満だったこともだんだん解消されていくし(たとえば,最初は15秒ジャンプ機能だけがあって15秒バック機能はなかったが,あるときバック機能も追加された)。

外形寸法は,ヨコ 129.6 mm,タテ 75.6 mm,厚さ 22 mm。シャツの胸ポケットになんとか入る。
ただしちょっと重いので,型くずれする。
まあしかしこの重さはしかたないだろう。あんまり軽くて弱い部品使われていても困るし。

動画データの転送方法

パソコンとは,USB ケーブルで繋ぐ。USB 2.0 対応だ。

HMP-A1 を単なる外付けの 20 GB ハードディスクとして使うなら,ただ繋いで,エクスプローラでファイルをコピー・アンド・ペーストすればいい。
けれども,そうやって送ったファイルは,HMP-A1 で再生することはできない。

再生できるかたちで転送するには,動画・静止画については HMP Image Transfer Manager,音声については musicmatch JUKEBOX という専用ソフトを使う。

musicmatch JUKEBOX は,いまひとつ使い勝手がよくない。
HMP Image Transfer Manager のほうは,機能が単純なだけに,使い方も簡単。

  1. パソコンと HMP-A1 を繋ぐ
  2. HMP Image Transfer Manager を起動する
    起動すると,左側に転送するファイルの一覧が,右側に HMP-A1 内の動画ファイルの一覧が表示されます。(左側を[動画転送]タブにしている場合)
    ただし,ときどき,HMP-A1 を認識しないことがあるようです。そういうときは,いったんソフトを終了し,また,USB ケーブルを HMP-A1 から抜いて(もちろん抜く前には正しい手順を踏む)から,HMP-A1 の電源を入れてから再度つなぎ,ソフトを起動します。
  3. [ファイル取り込み]をクリックする
    すると,転送するファイルを指定する画面が現れます。
  4. 転送するファイルを指定する
    転送したい動画の入っているフォルダに移動し,ファイルを指定します。
    指定したファイルは次の図のように水色になります。
  5. [転送するファイルの指定画面]
  6. [決定]ボタンをクリックする
    転送するファイルの指定が終了し,起動時の画面に戻ります。
    ただし,左側の一覧には,いま指定した動画ファイルが次の図のように追加されています。

  7. [転送実行直前の画面]
  8. 転送開始
    手順3〜手順5を必要なだけ繰り返して,転送する動画をすべて指定したら,左右中央の矢印のボタンをクリックします。
    転送が行われ,右側のリストに動画が追加されます。

データの転送速度

上の図の例では,合計 5 つ,11.2 GB のファイルを指定している。この転送は約 20 分で完了した。1 GB 当たり 2 分弱というところだ。もうすこし細かくいえば,約 76 Mbps ということになる。
USB 2.0 の理論値である 480 Mbps と比較しても,そこそこ好成績といえるだろう。

ただし,これは転送時に変換を行う必要がないファイルの場合の話。
WMV 形式や AVI 形式のデータは,変換しながら転送する。
また,MPEG-4 に対応しているとはいうものの,付属ソフトで変換した MPEG-4 でないといけないみたいで,MPEG-4 でも変換にかかる場合が少なくない。(2005/08/27訂正:付属ソフトで変換したものでなくても,MPEG-4 の標準的な規格のものなら OK のようだ。ただし MPEG-4派生CodecのAVIファイルは――MPEG-4ではないから当然だが――ダメ)
これらの変換処理は,相当に時間がかかる。実用レベルとはちょっといえないようだ。
このような,無変換で済まないデータは,HMP-A1 に転送しようとは思わないほうがいいし,転送する場合は,あらかじめ変換を済ませておくことをお勧めする。

動画データの事前変換

初期バージョンの HMP Image Transfer Manager では,たしか,あらかじめ変換しておくということはできなかった。しかし,現在のバージョンでは,それが可能だ。

  1. 出力形式(変換後の形式)を指定する
    上の図では,すべて MPEG-2 ファイルを指定したので,「出力形式」のところが「無変換」となっていますが,変換の必要なファイルの場合は,ここが「標準」などになります。
    出力形式を変えたいファイルがあったら,その名前の上で右クリックして,表示されるメニューから[プロパティ]を選択してダイアログを表示させ,そこで出力形式を指定します。
    ダイアログ上の「高画質」と「標準」はいずれも Full D1 サイズ(720×480)の MPEG-2 で,高画質は 8000 Mbps,標準だと 4000 Mbps となります。「長時間」は MPEG-4 ファイルとなります。
    「カスタム設定」を選べば,形式(MPEG-2 か MPEG-4)とビットレートを選択できます。
  2. 変換したいファイルを選択して(複数選択可),その上で右クリックし,[変換]をクリックする
    変換が実行されます。
    なお,HMP-A1 をパソコンに繋いだ状態だと,右クリックしたときに[変換]はグレイアウトしていて選択できないようです。事前変換するときは,HMP-A1 は取り外します。

変換後は,一覧の「状態」欄の表示が「未転送」から「変換済」に変わっているはずだ。
こうなっていれば,転送実行時には変換処理が要らないので,転送は短時間で完了する。

ちなみに,変換だけを行った場合,変換されたデータは,変換先フォルダとして指定されているフォルダに保存される。変換先フォルダは,[MENU−設定]で表示される設定ダイアログの動画転送タブで指定する。
変換先フォルダには,たとえば mpg1E.tmp のような,一見したところ動画ファイルとは思えない名前で一時ファイルとして保存されるが,実体は上で指定したとおりの MPEG ファイルである。どこか別のところにコピーして,指定に合わせて拡張子を変えてやれば,普通の動画ファイルとして使うこともできる。
この一時ファイルは,元のファイルが転送完了したり,転送ファイル一覧から削除されたりすると,消去される。

なお,HMP-A1 のユーザーは,SONY のサイトから,Nero Recode 2 CE をダウンロードして使用できる。これを使えば,DVD-Video を HMP-A1 に無変換転送・再生できる形式の MPEG-4 に変換することが可能だ。
といっても,スクランブルのかかっている市販 DVD は変換できない。とりあえず DVD-Video にしたけど見る時間がないテレビ番組などを,HMP-A1 で見られるように再度変換する,というようなときに使えるものだ。

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後続製品はどうか(2005年2月現在)

HMP-A1 以降,さまざまなポータブル AV プレイヤーが発売された。
そのどれもが,MPEG-2 再生機能を切り捨てている。だから私にとっては,今のところ,HMP-A1 を発売直後に買ったのは正解だったわけだ。
しかし,より魅力的な製品が出てこないのは,寂しくもある。

現在発売されている製品は,対応している動画・音声フォーマットで特徴づけられる。だから,ほとんど迷うことはない。
自分が主にどんな動画・音声を視聴するのかさえ決まれば,それで決まりだ。というか,決められてしまう。
次のようになる(括弧内の金額は,2005年2月12日時点での,価格.COMの最安価格)。

主な用途 選択すべき機種
MPEG-2 を見たい人 HMP-A1(43,632 円)しかないでしょう。
XviD や DivX で映像を貯め込んでいる人 アイリバーPMP-120(容量 20 GB。42,840 円)またはPMP-140(容量 40 GB。52,290 円)がいい。
外観は凹凸がありすぎて好きじゃない。持ちたくない。しかし,人によっては,掴みやすくていいと思うのかもしれない。
世界は Microsoft のものだから,いずれ世の中 WMV だらけになると読んでいる人 Creative Zen PMC(45,995 円)をどうぞ。
動画をみんな WMV に変換してしまうなんて,時間がかかってしかたがないのではないかと思うのだが,我慢すれば使えるのだろうか。
現状では,WMV でテレビ録画する一部の人か,音楽中心に利用する人にだけ勧める。
バッテリが長持ち(公称7時間)するし,見た目がちょっとクールなだけに,惜しい。
テレビから直接録画したい人 今後はこの方向の製品が増えていくのだろう。
しかし今のところ,実用レベルのものはあまりないようだ。予算が許すなら,今でも ARCHOS の Cinema To Go(AV320,AV340)(83,300 円,92,600 円)がやはりよさそう。
自分で撮影した映像を中心に見る人 セイコーエプソンの P-2000(52,579 円)。
これは,電車の中などで見るにはちょっと重すぎるし,録画したテレビ番組を観るのには不適当だろう。
しかし,動画デジカメやメモリカード記録型デジタルカメラを使って自分でのデータを蓄積させて見るためになら,容量も大きいしピッタリだろう。電池の交換ができるのも高ポイント。


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後続製品はどうか(2005年8月現在)

(2005年08月27日追加)

後続製品は,その後さらに出てきた。MPEG-2 再生可能なものもいくつかある。それらはどうだろうか。

結論から言うと,パソコンで録画したテレビ番組を視聴する目的のためには,HMP-A1 を凌ぐものは現行製品ではまだない。
しかし,まもなく登場しそうだ。

テレビから直接録画できる製品

ARCHOS のAV400 シリーズAV500シリーズ
AV400 シリーズの AV420 はハードディスク容量が 20 GB,AV480 は 80 GB。
AV500 シリーズは近日発売予定で,ハードディスク容量は 30 GB のモデルと 100 GB のモデルが用意される。
おそらく,AV300 シリーズと比べると,商品としての洗練度はかなり上がっているのだろう。価格にもこなれてきつつあるようだ。
しかし,いずれも動画は MPEG-4 か DivX しか再生できないので,私には合わない。
国内販売されていないので,手にとって使い勝手を試すこともできないし,何かと面倒だろう。手軽に視聴したい人には向かないのではないだろうか。
SORELL SV-10
録画フォーマットは ASF 形式。テレビから録画するほか,デジタルムービー機能もあって直接 ASF に記録(この機能にはあまり期待しないほうがいいようだが)できる。ハードディスク容量は 20 GB。
再生できるのは,動画が AVI, ASF(Ver. 9 simple profile), Xvid, DivX,音声がMPEG 1/2/2.5/Layer3, WMA。
詳細についてはパンフレットを参照のこと。
使用した感想など聞いていないのでわからないが,案外,手軽でそこそこ使える,いい製品かもしれない。韓国Samsung社から分かれた S-CAM社の製品だということなので,そんなに雑な作りではなさそう。ユーザーマニュアル(英語)もなかなか丁寧な感じだ。
PQI の mPack P800
これについては次の項で扱う。

MPEG-2 対応製品

PQI の mPack P800
4月下旬に発売された(2005/08/26現在の価格.comでの最安価格は,ハードディスク容量が 40GB ので 59,798 円)。
動画は MPEG1/2/4, XviD, WMV, ASF,音声は MP3, WMA, AC3, AAC, WAV, OGG に対応し,おまけに,テレビなどから直接 MPEG-4 や WMV で録画できてしまうという,凄い仕様。
ビデオ再生時のバッテリー駆動時間が4.5時間というのも,SONY の HMP-A1 より上。
機能については現行機種中トップのものといってよいだろう。
ただ,まだ日本語対応が完全ではないことのほか,再生時の安定性や使い勝手が全然ダメみたいなので,HMP-A1 から乗り換える気にはならない。
さすがに,機能を詰め込み過ぎなのだろう。PQI はフラッシュメモリの製造などで知られている台湾のメーカーだが,コンシューマ向けの製品を作るノウハウはあまりないのかもしれない。
NEXX の PMP1000
これも,対応するファイル形式は豊富だ。動画は MPEG1/2/4, DivX, XviD,音声は MP3, WMA, AAC, AC3, OGG。しかも,ビデオ再生時のバッテリー駆動時間は6時間だという。ハードディスク容量は 30 GB。
これは当初,日本では PMP1200 という型番で3月31日発売とアナウンスされ,「完成度が高いAVプレーヤーの本命?」と期待する声もあった機種だ。外観もシンプルでいい感じだし,バッテリーが交換可能なのもポイントが高い。
付属のスタイラスペンを背面に差してスタンド代わりにできるなど,細かい配慮も効いている。
しかし,出荷は遅れて5月になった。また実際に製品を使用した人の報告によると,DivX については快適に再生できるが,たとえば MPEG-2 では早送り/巻き戻しに時間がかかったり,前回のつづきからの再生ができなかったりするなど,問題があるらしい。
2GB を超えるサイズのファイルを再生できない仕様というのも痛い。私はポータブル AV プレイヤーに小さなファイルをたくさん貯め込んでおくことはなく,4GB くらいの比較的高画質な MPEG-2 ファイルなどをいったん転送して見るということはけっこうあるので。
この製品に満足できるのは,DivX で保存したけど未視聴のビデオが大量にある,という人くらいではないだろうか。
値段も高めで(直販で税込 71,400 円),ちょっと買う気にはならない。
Creative Technology の Zen Vision
日本では未発売だが,対応フォーマットは,動画が AVI, DivX, XviD, MPEG-1, MPEG-2, MPEG4-SP, WMV9,Motion-JPEG,音声が MP3,WMA(DRMにも対応),WAV。ハードディスク容量は 30 GB。
これだけでもほぼ死角なしというところだが,CFスロットがあってデジカメなどのマスストレージとしても使いやすいし,ボイスレコーダー機能やOutlookと同期可能なスケジュールソフトも付いている。
あとは,早送り/巻き戻しや15秒ジャンプ機能など,テレビ番組視聴の使い勝手がHMP-A1 並みだったら,これこそ本当に,ポータブルAVプレイヤーの本命だ。
日本での発売が待たれる。




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